
第16回の「美酒礼賛」は、第5回以来の久方ぶりの日本酒です。
正月早々興奮する出会いがありました。ワインの生産者でも滅多にないことなのにもかかわらず。
長文ですが、最後までおつきあいください。
26BY産 車坂 五百万石 山廃純米酒
生産地:日本,和歌山県岩出市
生産者:株式会社吉村秀雄商店
品 種:五百万石100%
※26BY:BYとは醸造年度の略で平成26年度に造られた酒を意味します。
酒造りはその年の秋から翌年の春にかけておこなわれるので、
正確には平成26年~27年に造られています。
燗酒ファンの私がこの寒い季節に超おすすめしたい日本酒です。
この酒を一言で表現するなら「出鱈目なほど素敵な酒」といえるでしょう。
まずこの酒は、ぬる燗(30~40℃、沸騰したおやかんに20~30秒程度徳利をつける)で味わうのが基本です。2年間酒蔵地下の保管庫(セラー!)で熟成されただけあって、色は黄みがかっています。香りは山廃仕込み独特のマディラ香。味わいは、酸が高く辛さを感じるのですが、山廃仕込みならではの濃醇でナッティなフレーバーが口の中で大きくふくらみます。そしてアフターには心地よい苦みがほんのり残るのです。まさに野趣あふれる男酒!
実はある方の紹介で今年(平成29年)1月4日に蔵元に見学に行かせていただきました。
その際、紹介されたのが藤田晶子杜氏です。彼女のまっすぐな眼差しに私は心を打たれました。こんなひたむきな眼差しを持った人に出会ったのは10数年ぶりでした。この人の造る酒なら間違いない、と直感しました。
藤田氏は能登杜氏四天王の一人である農口尚彦杜氏の愛弟子で、25BYから吉村秀雄商店で活躍されています。当時石川県加賀市の「常きげん」で杜氏をされていた農口杜氏の下で10年間修行され、そしてこの「車坂」を任されたのです。かつては女人禁制であった酒造りの世界に身を投じた藤田杜氏の労苦は想像に難くありません。
就任2年目にして山廃仕込みという熟練の技が必要な酒に果敢にチャレンジし、そうして2年間瓶熟成した後、満を持して出荷が始まりました。かつて師匠である農口杜氏が醸した加賀の銘酒「菊姫 山廃純米」と飲み比べてみたいものです。
この妥協を知らない「車坂」には飲み手の感情をゆさぶる何かがあります。
ところで、お値段は、720mlで1,350円、1.8Lで2,700円(税別)です。
安すぎます!!!
なお、「車坂」というブランドの由来はコチラです。
蛇足ですが、太田和彦著『シネマ大吟醸』にならって、この酒を日本映画に合わせるなら、小津安二郎の1949年作品で日本映画史上不朽の名作『晩春』といいたいところですが、ここはあえて、黒沢清の1985年作品で意味不明な快作『ドレミファ娘の血は騒ぐ』でいきたいと思います。