美酒礼賛

美酒礼賛 第32回2020年6月26日(金)

 
Rural-Pampaneo-Airen
 
 

 ポップなオレンジワインに出会いました。
 
 

 「オレンジワイン」と聞いて眉をひそめる向きも多いかもしれません。
 実はかくいう私もオレンジワインは苦手です。美味しいと思えるオレンジワインと出会うことが滅多にないからです。
 

 そもそもオレンジワインってどんなワインなのでしょうか?
 

 オレンジワインとは,単にオレンジ色をしたワインということではなく,伝統的な赤ワインの醸造法を用いて造る「白ワイン」のことです。具体的には,果皮と果汁を長時間接触させ,そのまま発酵に導きます。スキンコンタクトと呼ばれるこの工程は,近年テロワールを意識した白ワインを醸造する場合に積極的に取り入れられていますが,長くても数時間から数日程度です。しかし,オレンジワインの場合は,さらに長期間にわたりスキンコンタクトを行い,醗酵に導くため,3~4週間果皮と接触させておく造り手もいます。
 スキンコンタクトを行うと,果汁の中に果皮の持つ色素やフェノール類,そしてタンニンが抽出されます。抽出の際,多少の酸化も伴い,ワインが濃い黄色,場合によってはほのかなオレンジ色に染まります。通常,白ワインを造る場合には,収穫後すぐに圧搾して果皮と果汁を分けますが,オレンジワインはこのように果皮の成分をしっかりと生かすので,風味にも強い個性が出るのです。
 
 

 さて、今回取り上げるワインは,
 

 2018 パンパネオ・アイレン(エセンシア・ルラル)
 2018 Pampaneo Airen Bodegas Esencia Rural
 生産地:スペイン,カスティージャ・ラ・マンチャ州ケロ村
 生産者:エセンシア・ルラル
 品 種:アイレン100%
 

 ここで生産者のエセンシア・ルラルについて少し説明を。
 実は何世代にも渡りブドウの栽培やワインの醸造を行い,地元のマーケット向けにブレンド・ワインを造ってきました。 自社ブランドの設立は2002年。代々続く伝統的な栽培法を実践しながら,人の手を極力加えない栽培技法および醸造法でワインを造り出しています。スペイン新世代のバリバリの自然派生産者です。
 
 

 では抜栓してみましょう。
 色は,ほんのりオレンジがかったゴールド。香りは,黄桃,アプリコット,ナッツ,ヨード,…と複雑な表情をみせてくれます。
 ひとくち含むと,最初は少しだけ酸化臭を感じますが,ふたくち目には濃厚でまろやかな果実味に薬草の風味が溶け込んで…。果実味と酸味のバランスもGOOD。余韻もそこそこ長いです。
 そうです。
 オレンジワイン特有のいやなクセ(強烈な個性)がほとんどないんです。

 
 

 何て楽しいオレンジワインでしょう!

 
 

 この聞きなれない「アイレン」と言うブドウ品種は,実はスペインで最大の栽培量を誇る白ワイン用のブドウ品種なのです。ブランデーやシェリー酒の原料としてまた飲みやすくするために濃厚な赤ワインとブレンドして使われることが多いらしいです。そして,このパンパネオは何とフィロキセラ禍(*)以前から植わっているアイレンのブドウ畑(樹齢90~100年)から造られているのだそう。
 

(*)フィロキセラ禍:フィロキセラ(ぶどう根あぶら虫)という昆虫がブドウ樹にとりつくと5年程度でその樹を枯らせてしまう。この害虫が1860年代より19世紀末にかけてヨーロッパ全土のブドウ畑を壊滅状態にした。

 
 

 こんなに素晴らしいワインなのですが,お値段はというと,…。
 チリワイン並みの1,700円(税別)なのです!
 ちょっとすご過ぎます!
 
 

 合わせる料理は,ズバリ,タイ料理です。ヤムウンセン(春雨のサラダ)からグリーンカレーまでこれ1本でOK。
 
 

 ポップでオシャレなスペイン産オレンジワインです。
 
 

 参考価格:1,700円(税別)

美酒礼賛 第31回2020年6月9日(火)

 
Capucha-Fossil-Branco
 
 

ポルトガルの貴婦人に出会いました。
 
 

 ポルトガルの白ワインといえば私の知っているものは,若飲みの「ヴィーニョ・ヴェルデ」ぐらいなもので,ほかにどんな白ワインがあるのかさっぱりわかりません。自分の勉強不足を棚に上げてはいけませんが,ポルトガルの赤は何となくイメージが湧いてくるのですが,白は全く?でした。
 
 

 さて、今回取り上げるワインは,
 

 2017 フォッシル・ブランコ(ヴァレ・ダ・カプーシャ)
 2017 Fossil Branco Vale da Capucha
 生産地:ポルトガル,リスボン北部トレシュ・ヴェドラシュ
 生産者:ヴァレ・ダ・カプーシャ
 品 種:フェルナン・ピレシュ50%,アリント35%,カスタス・レジオナイス15%
 
 生産者のヴァレ・ダ・カプーシャについて少し説明を。
 当主のペドロ・マルケシュは,2005年にリスボンの農業専門学校卒業し,ヨーロッパや新世界のワイナリーで働きながら,故郷のトレシュ・ヴェドラシュ(ポルトガルの首都リスボンから北へ30kmのところ)で少しずつ家族の畑を植えなおし,2009年に初めて自身のワインを造りました。2015年にはビオ認証を取得。キンメリジャン土壌(フランス・シャブリ地区で有名)を活かし,酸化防止剤不使用の醸造技法でワイン造りを開始。今まさに羽ばたこうとしている新世代のポルトガルの自然派生産者です。
 
 

 では抜栓してみましょう。
 色は,ややうすいゴールド。香りは,グレープフルーツ,メロン,少しすると枇杷,マンゴーやパイナップルなどの南国のフルーツも。
 一口含むと,最初は酸化防止剤不使用醸造時に特徴的なソーダ水のような辛さを感じますが,少し時間がたつと濃厚な果実味ときちっとした伸びやかな酸が高い次元で調和しているのがわかります。意外にボディもあり,最後はドライに締めくくり,長い余韻となって残ります。

 
 

 これは,まるでポルトガルの貴婦人を想わせる「リッチなシャブリ」です。
 

 実は,ここトレシュ・ヴェドラシュの地層は辛口白ワインの代名詞的存在であるフランスのシャブリ地区の地層と同じキンメリジャン階の石灰岩質だそうです。これは深い海であった時代の貝殻の化石を多く含んでいるのが特徴です。エチケットのアンモナイトの化石の図柄もそこからでてきているのでしょう。ドライなフィニッシュは,まるでシャブリそのものです!
 

 恥ずかしながらフェルナン・ピレシュを始めとする3種のブドウ品種については全く?ですが,ポルトガルは250種を超える独自品種が今でも栽培されているという固有品種のメッカのようなところなのです。
 

 このワインは,独自品種にありがちな変なクセもなく,国際的なワインマーケットにおいてフランスやイタリアの銘醸ワインに比肩しうる一流の品質と個性を持っています。
 
 

 合わせる料理は,夏野菜とエビや貝柱などの魚介類をふんだんにあしらったサラダで決まりです。
 
 

 価格もお手頃。かなりイケてるポルトガルの貴婦人です。
 
 

 参考価格:2,800円(税別)
 

美酒礼賛 第30回2020年5月24日(日)

 
Von-Wining-Sauvignon-Blanc2
 
 

 愉快なドイツ産ソーヴィニョン・ブランに出会いました。♪

 

 ソーヴィニョン・ブランといえば,まずロワール地方のサンセール,次にボルドー地方のグラーヴ,そしてニュージーランドのマールボロ,…といったところが,高名な産地と言えるのではないでしょうか。グラーヴは第11回でシャトー・ミルボー・ブランを取り上げました。
 
 

 さて、今回取り上げるワインは,
 

 2018 ソーヴィニョン・ブランⅡ(フォン・ウィニング)
 2018 Sauvignon Blanc II Trocken Q.b.A. Von Winning Weingut GmbH
 生産地:ドイツ,ファルツ地方QbA
 生産者:フォン・ウィニング醸造所
 品 種:ソーヴィニョン・ブラン100%(ステンレスタンク熟成8ヶ月)

 

 フォン・ウィニング醸造所について少し説明を。
 19世紀初頭ドイツ南部のファルツ地方で名声を誇った『ジョルダン・エステイト』の後継者レオポルト・フォン・ウィニングが1907年にフォン・ウィニング醸造所を設立しました。彼はワイン造りに高い志を持ち,優良ドイツワイン生産者協会V.D.P.(*)設立の功労者の一人でもありました。その後,第1次および第2次世界大戦におけるドイツの敗戦の影響から抜け出せず,長らく低迷していました。2007年(100周年!)ついに起業家のアヒム・ニーダーベルガーによって再興されました。
 現在ワイナリーでは「畑の可能性を引き出し,最高品質のワインを造る」ことをモットーに,テロワールを重視した環境にやさしいブドウ栽培と人的介入を可能な限り行わないワイン造りを目指しています。
 まさに”FINE WINE”を産み出しているのですね。
 

*)優良ドイツワイン生産者協会V.D.P.(Verband Deutscher Prädikats und Qualitätsweingüter)とは,ドイツにおける上級ワイン造りにおいて主導的役割を果たしている。1910年3月19日設立。2010年5月現在,会員数は196醸造所。総栽培面積は約4900ha,ドイツ全体では約10万haなので約5%。

 
 

 では抜栓してみましょう。
 色は,淡いイエロー。香りは,パッションフルーツ,熟したオレンジなどの南洋系フルーツ!
 一口含むと,凝縮感のある果実味と丸みのある酸とのバランスが良く,やさしい味わいを生み出しています。そしてフィニッシュにはレモングラスのような風味を感じ,ワイン全体を引き締めています。
 

 ソーヴィニョン・ブランといえば,淡いグリーンイエローを呈した青草のアロマが定番ですが,これは淡いイエローとパッションフルーツ! こんな色と香りを持つソーヴィニョン・ブランは,かつてカリフォルニア産で経験したことはありますが,ヨーロッパ産では初めてかもしれません。飲んでいて楽しくなる1本です。ここのブドウ畑のテロワールはよっぽど変わっているのでしょうか!? 飲み手をこんなにハッピーな気分にしてくれるソーヴィニョン・ブランもめずらしいです。
 
 

 本当に愉快なファルツのソーヴィニョン・ブランです。
 
 

 合わせる料理は,パルミジャーノをたっぷりかけたシンプルなリゾットで決まりです。
 
 

 価格もお手頃。かなりうれしい初夏にピッタリな1本です。
 
 

 参考価格:2,500円(税別)

美酒礼賛 第29回2020年5月14日(木)

 
Ferret-Les-Menetrieres
 
 

 今回は,まさにCOOL BEAUTYなプイィ・フュイッセをご紹介します。
 
 

 第29回はブルゴーニュの白です。第1回ではACブルゴーニュ・ブランを第8回ではACコルトン・シャルルマーニュを第15回ではACサン・ヴェラン,そして第25回ではACサヴィニー・レ・ボーヌ1級畑を取り上げました。
 
 

 さて、今回取り上げるワインは,
 

 2016 プイイ・フュイッセ・オール・クラッセ ”レ・メネトリエール”(J.A.フェレ)
2016 Pouilly-Fuisse Hors Classe “Les Menetrieres” domaine J.A.Ferret
 生産地:フランス,ブルゴーニュ地方プイイ・フュイッセAOC
 生産者:J.A.フェレ
 品 種:シャルドネ100%
 

 1840年設立のプイイ・フュイッセ最良の生産者のひとつ。
 2008年ルイ・ジャドが購入し,品質が向上し続けています。
 「オール・クラッセ」とは,フェレの最上級キュヴェの呼称です。
 オーク樽にて醗酵後,そのまま16ヶ月熟成。
 マルメロのアロマにハチミツやトーストの香りが溶けあって複雑な風味を醸し出しています。柔らかな口当たり,濃厚で複雑な味わいを持ち,余韻も長いです。
 プイィ・フュイッセの枠をはるかに超えた最上級のブルゴーニュの白です。
 今飲んでも美味しいですが,20年以上は熟成できるポテンシャルがあります。
 
 

 ドメーヌ・フェレは,1840年創立の由緒あるドメーヌ。ブルゴーニュ南部マコネー地区ACプイィ・フュイッセ最良の生産者のひとりです。このアペラシオンにおいてテロワールごとにワインを瓶詰めし始めた最初の生産者でもあります。2008年よりルイ・ジャド社の傘下に入り,さらなる高みをめざしています。
 
 

 早速、抜栓してみましょう。
 色は,淡いゴールド。香りは,まず青りんご,それから柚子,すだち,レモン,オレンジなどの柑橘系,パイナップル,ハチミツ,ブリオッシュ,ヒノキ,…。さまざまなアロマがさざ波のように上品に拡がっていきます。
 一口含むと,青りんごの酸味と濃厚な果実味のバランスが厚みのあるボディを生み出しています。余韻にはシークアーサーのような風味が長く残ります。しっとりと落ち着きのある味わいを持ちながらボリューム感もあり,かつ清涼感もあります。
 
 

 なんてゴージャスなワインなんでしょう。まさに”COOL BEAUTY”という形容がピッタリとくる傑出した1本です。
 
 

 ワイン評論家のジャスパー・モリスは『ブルゴーニュ大全』の中で「レ・メネトリエールの畑はプイィ・フュイッセの真髄である」と絶賛しています。最良のプイィ・フュイッセがここにあります。

 
 

 参考価格:9,000円(税別)
 

美酒礼賛 第28回2020年4月23日(木)

 
Sacrisassi_Bianco
 
 

 第28回は北イタリア・フリウーリ=ヴェネツィア・ジューリア州産の白です。
 
 

 前回にひきつづき北イタリアの素晴らしい個性を持った1本です。
 

 フリウラーノというブドウ品種は,イタリアの最北東にあるフリウーリ=ヴェネツィア・ジューリア州を中心に北部で栽培されている独自品種です。またリボッラ・ジャッラ種にいたってはフリウーリ=ヴェネツィア・ジューリア州の一部でしか栽培されいません。
 

 さて,今回取り上げるフリウーリ=ヴェネツィア・ジューリアの白は,これら聞きなれない独自品種2種のブレンドのワインです。
 

 2015 フリウーリ・コッリ・オリエンターリ・サクリサッシ・ビアンコ(レ・ドゥエ・テッレ)
 2015 Friuli Colli Orientali “Sacrisassi” Bianco Azienda Agricola Le Due Terre
 生産地:イタリア,フリウーリ=ヴェネツィア・ジューリア州フリウーリ・コッリ・オリエンターリDOC
 生産者:レ・ドゥエ・テッレ
 品 種:フリウラーノ70%,リボッラ・ジャッラ30%
 醸 造:醗酵後,フレンチオークで20ヶ月の樽熟成

 
 

 どんな個性が現れるのでしょうか。抜栓してみましょう。グラスに注がれた液体は,ほんのり赤みさす麦わら色。香りは,アーモンド,梅の花,梅干し,ハチミツ,…。一口含むと,口当たりはソフトで,伸びやかな酸に濃厚な果実味が調和しています。豊かなアーモンドのなかに少し梅干しの風味も。ほんのりスパイシーなニュアンスも感じます。余韻はとても長いです。
 なお,サクリサッシSacrisassiとはイタリア語で「聖なる石」の意味。その由来はワイナリーの場所にかつて古い教会があったことにちなんでいるらしいです。
 

 この色調と味わいから,明らかに酸化防止剤不使用で醸造した,バリバリの自然派ワインということがわかります。
 余談ですが,私がこのワインを初めて試したのは(私の記憶が正しければ)2003年でヴィンテージは2000年だったように思います。当時のサクリサッシは,セパージュ(原料ブドウのブレンド割合)にソーヴィニョン・ブランが含まれており,かつ醸造時に酸化防止剤を使用していたためか,2015VTよりも,色は少し緑がかった麦わら色で,味わいもよりスパイシーさが目立っていたように記憶しています。すなわち現在より明快なスタイルであったように思います。
 

 技術的な違いはともかく,サクリサッシは類いまれな個性を持つ白ワインであることは間違いないのです。

 
 

 さて,このサクリサッシにどんなチーズを合わせましょうか。
 ブリーなどの白カビ全般と相性は良さそうですが,ここは少しひねってフランス・スペイン国境のピレネー山岳地帯のハードタイプの名品オッソー=イラティーなどはいかがでしょうか。羊乳特有の旨みがフリウラーノ種の果実味とピッタリとマッチし「しあわせ」を感じます。
 お料理なら,粗塩をひとふりした地鶏のグリルにガッツリと合わせてみたいです。

 
 

 参考価格:5,700円(税別)
 

美酒礼賛 第27回2020年4月11日(土)

 
Anselmet-Muscat
 
 

 第27回は北イタリア・アオスタ渓谷産のミュスカです。
 
 

 シャルドネ,ソーヴィニョン・ブランにちょっと飽きた方にぜひおすすめしたい1本です。
 

 ミュスカ(マスカットのことです)というブドウ品種は,イタリアではモスカート・ビアンコと呼ばれ,国土のほぼ全域で栽培されています。ピエモンテ州のアスティ・スプマンテやモスカート・ダスティ(どちらも甘口)などが特に有名です。また,北アフリカのチュニジアとシチリア島の間に浮かぶパンテッレリーア島で造られるモスカート・ディ・パンテッレリーアは極上のデザートワインです。

 
 

 さて,今回取り上げるヴァッレ・ダオスタのミュスカは,甘口ではなく辛口仕立てです。
 

 陽春にピッタリな白ワインです。
 

 2018 シャンバーヴ・ミュスカ(アンセルメ)
 2018 Chambave Muscat Maison ANSELMET
 生産地:イタリア,ヴァッレ・ダオスタ州ヴァッレ・ダオスタDOC
 生産者:レナート・アンセルメ
 品 種:ミュスカ(=モスカート・ビアンコ)100%
 醸 造:醗酵後,ステンレスタンクにて3~4ヶ月の熟成

 
 

 ヴァッレ・ダオスタ州はピエモンテ州の州都トリノから北へ80kmほどのところにあるフランス国境にほど近いワイン産地。北はスイス,西はフランスに接しています。イタリアで最も小さい州です。「ミュスカ」というカタカナ表記を見てフランス語圏であることがわかります。イタリア語とフランス語の両方が公用語となっているめずらしい州です。州都アオスタから東へ20kmほどのところにシャンバーヴの村があり,そこで栽培されているミュスカを原料に造られる辛口の白ワインがこの「シャンバーヴ・ミュスカ」なのです。
 
 

 それでは抜栓してみましょう。色は,ほんの少し緑がかった淡いイエロー。香りは,花ではユリ,フルーツではメロンやグレープフルーツ,ハーブではバーベナ,ローズマリー,…。そしてハチミツのような甘いニュアンス。アンセルメ社のホームページではこのワインの香りの表現に”kaleidoscopic”日本語で「万華鏡のような」という形容がされていました。まさに万華鏡のようにさまざまアロマの表情を見せてくれます。
 一口含むと,口当りはやさしく,果実味は濃厚でふくらみがあり,アルザス産ミュスカと比べ残糖分は少なくややドライな印象です。
 

 本当に楽しい白ワインです。
 
 

 アルザスのミュスカはどちらかというと個性が強く飲み手を選ぶ場合が多いですが,このシャンバーヴ・ミュスカは誰からも愛されるフレンドリーな風味を持っています。合わせる料理としては,菜の花のペペロンチーノや塩コショウで食べる串カツなんてのも面白いかもしれません。

 
 

 参考価格:3,200円(税別)

 

美酒礼賛 第26回2019年8月12日(月)

 
Van Volxem_Sekt
 
 

 第26回はドイツ産スパークリングワインのゼクトです。
 
 

 まずはゼクトについておさらいを。
 最もお手頃なシャウムヴァインに始まり,ゼクト,ドイチャー・ゼクト,ドイチャー・ゼクトb.A.の4段階の等級に分かれています。
 
 

 さて、今回取り上げるゼクトは,
 

 2011 ゼクト1900・ブリュット・リースリング(ファン・フォルクセン)
 2011 Sekt 1900 Brut Riesling Q.b.A. weingut Van Volxem
 生産者:ファン・フォルクセン
 品 種:リースリング100%
 醸 造:一次発酵は,野生酵母による木樽醗酵。瓶内二次醗酵後,澱とともに5年間セラーにて保管。
 
 

 このゼクトは文句なしのトップランクの「ドイチャー・ゼクトb.A.」です。その中でも特別なヴィンツァー・ゼクトWinzersekt(醸造所のゼクト)※です。
 

※)個々の醸造所や協同組合が生産したぶどうから造られたベースワインのみを使用し,伝統製法によって造られるゼクト。ゼクトb.A.の条件を満たしており,デゴルジュマンまで最低9ヶ月間酵母の澱と一緒に熟成させる。より高品質のゼクトを生産するため,デゴルジュマンまで数年にわたって熟成させる生産者も。エチケットには醸造所,品種,ヴィンテージの表記が義務付けられている。
 
 

 ファン・フォルクセンといえば,19世紀末から20世紀初頭にかけてのモーゼルワイン全盛期(当時のリースリングは辛口!)のワインを21世紀の現代に復活させるべく邁進している傑出した生産者です。優良なリースリングのクローンを使用して収量を抑制し,野生酵母で醗酵させるという,まさにモーゼルのファインワインを造り続けています。今では,同産地の伝説的な生産者であるエゴン・ミュラー家と比肩しうる存在になりつつあります。
 
 

 ところで,一般的なゼクトといえば,心地よい酸味を持つすっきりとした,食前酒にピッタリな辛口のスパークリングといった感じでしょう。
 

 さて,このゼクトはどうなのでしょうか。
 早速、抜栓してみましょう。
 色はゴールドそのもの。繊細な泡にマンゴー,枇杷(びわ),ピーチなどの美しいアロマ。一口含むと,口当たりはやさしく,しっかりとしたボディを持ち,濃厚なフルーツの味わいが辛口でありながらほとんど辛さを感じさせません。アフターにはマンゴーのフレーバーが長く長く続きます。
 
 

 驚愕のゼクトです!
 こんなにすごいゼクトは,いまだかつて経験したことがありません。シャンパーニュでさえもこれほど伝統的な味わいを持つものは,クリュッグやボランジェなどほんの一握りしか存在しないのではないでしょうか。
 
 

 なお,ラベルに書かれている「1900」とは,1900年頃(100年以上前!)に植樹されたリースリングが一部使用されているからだそうです。
 本当にすごいですね!
 
 

 参考価格:5,500円(税別)
 

美酒礼賛 第25回2019年6月18日(火)

 
Savigny-Clos-des-Guettes
 
 

 第25回はブルゴーニュの白です。第1回ではACブルゴーニュ・ブランを第8回ではACコルトン・シャルルマーニュを第15回ではACサン・ヴェラン取り上げました。さて今回は,…。
 サヴィニー・レ・ボーヌの1級畑の白?です。
 
 

 シャルドネについて、いまさら説明は不要だと思いますが、ちょっとおさらいを。
 ブルゴーニュ原産の白ブドウ品種で、世界中のワイン産地で栽培されています。樽醗酵、樽熟成によくなじみ、古今東西の白の銘酒はほとんどがシャルドネです。シャンパーニュにも用いられ、シャルドネ単一で醸されるものは「ブラン・ド・ブラン」と呼ばれ、高級シャンパーニュの代名詞的存在です。
 
 

 さて、今回取り上げるワインは、
 

 2016 サヴィニー・レ・ボーヌ1級畑クロ・デ・ゲット(ルイ・ジャド)
 2016 Savigny-Les-Beaune 1er Cru Clos des Guettes domaine Gagey
 生産地:フランス,ブルゴーニュ地方サヴィニー・レ・ボーヌ・プルミエ・クリュAOC
 生産者:ルイ・ジャド社
 品 種:シャルドネ100%
 栽 培:ビオディナミ農法
 醸 造:野生酵母で醗酵後、16ヶ月の樽熟成

 

 サヴィニー・レ・ボーヌはペルナン・ヴェルジュレスとボーヌの間に位置しています。ペルナン・ヴェルジュレス側にその『クロ・デ・ゲット』の畑はあります。そこにルイ・ジャド社の経営者一族のガジェ家が1区画を所有しています。すなわちルイ・ジャド社のドメーヌ物(自社畑&自社醸造)のワインです。サヴィニー・レ・ボーヌといえば、圧倒的にピノ・ノワールの赤が有名ですが白もわずかですが造られているのです。そして、この区画ではシャルドネがビオディナミ農法で栽培されいます。
 

 ブルゴーニュ最強のネゴシアン兼ドメーヌであるルイ・ジャド社の説明は特に必要ないと思いますが、少しだけ。
 1859年に由緒あるブドウ栽培家のルイ・アンリ・ドゥニ・ジャドによって設立され、以降ネゴシアンとしてはもちろん、現在ではブルゴーニュに240ha以上のブドウ畑を所有するブルゴーニュ有数の大ドメーヌです。また近年はより自然な栽培を志向し、より健全な果実の収穫をめざしています。
 

 一般的なサヴィニー・レ・ボーヌの赤は、どちらかと言うと濃厚でしっかりした…という形容ではなく、柳腰のエレガントなワインが多いのですが、この白はどうなのでしょうか?
 

 早速、抜栓してみましょう。
 アップル、パイナップル、熟したメロンなどの美味しそうなアロマ。そしてヨーグルトやバニラの風味も。
 一口含むと、最初にグレープフルーツや青りんごなどの苦味や酸味を感じますが、しばらくするとそれがオレンジや焼きりんごに変化し、さらにはハチミツや昆布出しなどの甘味や旨味を感じるようになります。それらが濃厚な果実味と伸びやかな酸と一体となり、驚異的に複雑な味わいとボリューム感を生み出しているのです!
 

 これは、あの偉大なシャサーニュ・モンラッシェに比肩しうる傑出した白ワインです。
 
 

 ブルゴーニュの白の有名アペラシオン、ムルソー、ピュリニー・モンラッシェ、シャサーニュ・モンラッシェなどの近年の価格の高騰ぶりにはあきれるばかりですが、このサヴィニー・レ・ボーヌのクロ・デ・ゲットに関してはお買得というより、超バーゲンセールと言ったほうがいいのではないかと思います。
 
 

 参考価格:6,000円(税別)
 

美酒礼賛 第23回2018年12月15日(土)

 
Ca-del-Bosco-RS
 
 

 第23回はひさびさの泡物です。シャンパーニュに追いつけ追い越せと言わんばかりに品質の追求を続けているフランチャコルタを取り上げたいと思います。
 
 

 2002年フランチャコルタ・リゼルヴァ・ヴィンテージ・コレクション・ブリュットR.S.(カ・デル・ボスコ)
※2016年春にデゴルジュマン。
 生産地:イタリア,ロンバルディーア州フランチャコルタDOCG
 生産者:カ・デル・ボスコ社
 品 種:シャルドネ50%,ピノ・ネロ30%,ピノ・ビアンコ20%
 

 まずは、生産者のカ・デル・ボスコ社の説明から。
 1970年代後半より,フランス人醸造家を招き瓶内二次発酵(=シャンパーニュ製法)によるイタリア産スパークリング(=フランチャコルタ)の製造を開始。以後試行錯誤を重ね,いわゆる年号入りのヴィンテージ・コレクションやプレステージクラスのアンナマリア・クレメンティなどを次々に発表してきました。現在ではベッラヴィスタ社とともにフランチャコルタをけん引する優れたワイナリーになっています。
 さて,そんなカ・デル・ボスコ社が2018年に満を持してリリースしたのが,このブリュットR.S.です。R.S.とはRecentemente Sboccatotoha=最近デゴルジュマン(製品化)した,という意味です。シャンパーニュ好きならこの言葉を聞いてピンときた方も多いと思います。そうです。プレステージ・シャンパーニュ最高峰のひとつボランジェ社のR.D.です。2004年のR.D.は13年以上のセラー内熟成を経て2018年の春に市場に出荷されましたが,この2002年のR.S.は12年4ヶ月の熟成を経ています。このことよりカ・デル・ボスコ社のハンパない意欲を感じざるを得ません。
 

 では、早速抜栓してみましょう。
 ゴールドのきらめきが繊細な泡立ちとともにフルートグラスの中を駆け上がっていきます。マスカットやレモン,ピーチなどのフルーツのアロマにピスタチオやブリオッシュなどの香ばしさに加えハチミツのニュアンスも。味わいはデゴルジュマンしたての溌剌さと長期熟成による濃厚な熟成感とが相まって,ワンランク上のバランスを醸し出しています。
 まさにシャンパーニュを超えた傑出したフランチャコルタです。
 
 

 2004年のボランジェR.D.が38,000円でこのカ・デル・ボスコR.S.が15,000円。半分以下の価格で最上級のスパークリングワインが味わえるこの贅沢は何物にも代えがたいものがあります。
 
 

 みなさまも,ぜひ!
 
 

 参考価格:15,000円(税別)
 

美酒礼賛 第22回2018年3月14日(水)

 
capellanes-OLuardoSil
 
 

 第22回はスペインの独自品種ゴデージョです。
 大西洋に面したスペインの北西端にある白の銘醸地ガリシアからの1本です。
 
 

  2015 オ・ルアール・ド・シル ソブレ・リアス(パゴ・デ・ロス・カペジャーネス)
 生産地:スペイン,ガリシア州DOヴァルデオラス
 生産者:パゴ・デ・ロス・カペジャーネス
 品 種:ゴデージョ100%
 
 

 まずは、生産者のパゴ・デ・ロス・カペジャーネスの説明から。
 1996年にスペインの銘醸地リベラ・デル・ドゥエロの中心地で創業。パゴ・デ・ロス・カペジャーネスとは「司祭の畑」という意味です。中世の時代この地では、司祭たちがブドウの栽培とワインの醸造を行っていました。当主フランシスコ・ロデロは由緒あるこの地に100haもの土地を所有し、スペイン最良のワインを造るべく邁進しています。すでにテンプラニージョを使用した赤ワインでは世界的名声を勝ち得ています。
 

 そんなカペジャーネスですが、白ワインの生産にはたいへん慎重でした。2014年本拠地のリベラ・デル・ドゥエロから北西へ300kmも離れたガリシア州ヴァルデオラスに醸造所を新設し、ゴデージョの栽培と醸造を始めました。その最初の成果がこの「オ・ルアール・ド・シル」なのです。

 早速、抜栓してみましょう。グラスに注がれた液体は透明感のある淡いゴールドを呈し、スィーティーやグレープフルーツなどの柑橘系の香りを放ち、つづいて梅やりんごのジャム、そしてローズマリーやエストラゴンなどのハーブ系の香りも。一口含むと、ピリッとした酸味を感じ、次にボリューム感のある果実味、そしてフィニッシュには心地よい苦みがほんのり残ります。
 

 この白ワインは木樽熟成はなく、そのかわりタンク内で6か月間シュール・リー状態におかれます。今まで個人的にはゴデージョのワインでピンとくるものがなかったのですが、この「オ・ルアール・ド・シル」は違います。ブルゴーニュやロワールの白にはないキラキラ光る個性を持っているのです。
 
 

 なお「オ・ルアール・ド・シル」とは「シル川に反射する月の光」という意味だそうですが、その詩的な表現が完璧に的を得た傑出した1本となっています。
 

 ただ残念なことに、このワインは輸入元の判断で終売となりました。しばらく日本には入ってきそうにありません。当店のセラーにもあと数本のみ。(泣)
 
 

 参考価格:5,300円(税別)